閑話『病室とストッキングと私』中篇

朝がやってきました… 夜中までかなり騒がしかったナースステーションや廊下も静まり返っているので、いくら24時間体制とは言え、最小限の救急チームと入れ替わり、外科医も麻酔チーム等も休憩に入るのでしょう。そりゃそうです、私も(自分の手術を)急いで欲しい、と願ってはいても、流石に十数人も執刀した後の外科医やヘロヘロになった麻酔チームに自分の身を委ねるのはぞっとしません…

朝には看護婦が新しい患者服とあの真っ白なストッキングを持って来て、「手術に備えシャワーを浴び、着替えてください」と言います。水さえ飲むのを禁じられているので、この時点で約36時間、何も口に入れていません。シャワールームで見る自分のお腹はここ20年来見た事も無いくらい平たくなっており「ウ〜ン、断食もたまには悪く無いな」と、自分の身体に見惚れたりします(爆)。

担当の外科部長(?)が数名のインターンを後ろに従えて病室に現れたのは10時を過ぎた頃だったでしょうか。満面の笑みを浮かべ握手を求めてきた時には「(こりゃあワシの手術は今日朝一だわい!」と確信したのですが…
外科部長「(触診しながら)うん、大した事無いね!」
私「痛かったのは先週ですから」
外科部長「…今日はね、また格別に急患が多いんだよ。朝の時点で7人が緊急手術待ちでね…」
私「(顔面蒼白…)あ、アノね、昨日の時点で3人目と言われて夜中まで待ってたんですよ!」
外科部長「いや、でも今朝入った急患が7人だから…運が良ければ今日中には…」
私「昨日も同じこと言われました!アノ、ワタシニッポンジン、仕事の締切りとか業務連絡があるんです!」
外科部長「いや、無理なものは無理なんでね..7人居るから。今日中に手術できれば土曜…日曜には帰宅できるから」
私「コンピュータ持ち込んでクライアントに連絡してもいいですか?」
外科部長「ああ、いいよ。でも君は外出禁止」
インターン(横から)「コンピュータは使えますが、Wifiは使えませんよ…」

相方にどのファイルをどのメモリにコピーし、どのソフトウェアのパッケージがどこに置いてあるか、等を指示し、タクシーで自宅に向かってもらいます。
その間にも、昨日同様、看護婦やケアマネージャー、同じ病室の隣人(2人部屋)から次々と更新情報が入ります。
隣人「グッドニュース!急患のうち数名、他の病院に廻されたらしい!我々にチャンス有り!」
看護婦「今日、午後早くにはいけそうです!」
隣人の奥方「今日は次々に急患が入ってるそうよ…」

相方が私の古〜いPowerBookを運び込み、メモリからファイルを移し、仕事に取りかかり2時間が経った頃でしょうか… 飛び込んできたニュースは「現時点で12人待ちです!」
もう、この待ち情報に何の期待もしていなかった私は、取り敢えず仕事に集中することにしました。しかし、待てば待つ程、一切の飲食が止められている私の体力が保つのかどうか…それからほんの30分後… 午後3時くらいだったでしょうか、小太りの担当看護婦長が威勢良く病室に飛び込んできました。
「さあ!手術いきまっせ!」私「え?手術?私の?」看護婦長「そうよ!」

手術ベッドに載せられ、前腕に入れ墨を入れた屈強な感じの看護士がベッドを押し始めます。
ガ〜〜〜〜〜ッと長い廊下を走り、何度か廊下を回折し、エレベータに乗り、そしてまたガ〜〜〜〜〜ッと廊下を走ります。私はその長い廊下の天井を仰ぎ見ながら、「あァ、なんかテレビドラマなんかで良くこういうシーンがあったなァ」とボンヤリと考えていました……

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